2012/01/02

CARNIVAL 感想

いまさらながら瀬戸口廉也のCARNIVALをプレイ。未だにパッケージ版はプレミア(Amazonで二万近く)ついてるみたいなので、DL版(Amazonで¥2500程度)を購入。プレイ時間は10時間くらいでした。


以下ネタバレ要約しつつ感想


メインとなるキャラクターは三人、学と彼の交代人格である武、そして理紗です。
このゲームは『CARNIVAL』、『MONTE-CRISTO』、『TRAUMEREI』の三章から構成されていて、それぞれ学、武、理紗の視点から描かれます。事実と心情がどんどん明らかになっていくので読ませる力が強い。

学はいわゆる二重人格者(の基本人格)です。学は母親から身体的な虐待を受けており、それを引き受ける交代人格として武を生み出します。母親の虐待が始まると学は武と交代し、武に虐待の記憶、母親への憎しみを引き受けさせる。学は何が起きているかはわかってますが、直接的な被害の記憶を持たないため、それでも母親を愛している、という。逆に武は学が表にいるときの記憶も持っています。このころは学は武の存在を認識しているので、学が前に出ているときは両者のコミュニケーションが可能です。
虐待する母、虐待される子供、解離性同一障害、といった構造は典型的ですが描写が強い。第一章『CARNIVAL』開始時のふざけきったテキストとのギャップも効いてます。

しばらくはそうやって耐えてたわけですが、当然ながら対処療法にも限界が訪れ、母親と花火を見に行った日に、武が母親を突き落として殺してしまう。武は破壊衝動の強い人格を引き受けてますが、学と武はもともと同じ人格ですから、学が大切に思っている相手を武は決して殺せない。つまり殺したのは両者の罪です。学にはこの罪を受け入れる準備ができていない、と考えた「学の影」(メタな人格)は、武を閉じ込めることにします。これにより学は武という別人格を全く認識できなくなります(かつての記憶にある武は友人かなにかだと誤認する)。そうして母親殺しの罪を背負うことを先延ばしにしたわけです。罪を背負うことに耐えられるようになるまで。
武を消せればいいんですが、もともと一個の人格から分裂したわけですからそれは不可能です。たとえ出来たとしても欠けてしまうだけです。

一方、理紗は実の父から性的虐待を受けて育ちます。彼女は父親を蔑むようになりますが、仮面をつけて「温かい家庭」に適応します。彼女はまだ武を認識していたころの学と出会い、「なんとなく」仲良くなれる気がする、といって友達になります。彼女は武ともコミュニケーションしており、母親からの虐待についても聞いた、学の秘密を知る唯一の他者です。理紗は自分の受けている虐待を学(武)に話すことはありませんでしたが、お互いに支えになってたのは間違いないでしょう。

武が母親を殺した日、理紗は全てを見ていました。でもそれを警察に話すことはなかった。たった一人の仲間がいなくなるかもしれないから。彼がいなくなってたら理紗は心を失くしてたんじゃないでしょうか。仮面だけが残って。

そして現在。武が再び表に出られるようになります。あいかわらず学は武を認識できませんが。理紗のほうは変わらず父親からの虐待を受け続けています。仮面もかぶり続けてます。久しぶりに表に出た武は衝動のまま理紗を犯し、彼女が処女でないことに気づきます。学の味方だと思っていた彼女が他の男に抱かれていたことに武は怒り、彼女を裏切り者だと断定し、攻撃する。

学の味方など世界に誰もいない。そう思った武は、学から「指定席」を奪い、学をいじめていた上級生を殺します。このくそったれな世界から逸脱するために。

「指定席」に戻り記憶のない殺人の容疑者になった学は、一旦は逮捕されますが、警察から逃げることに成功します。そして理紗と会い、理紗の家に匿ってもらうことに。このころには武と学の人格はかなり頻繁に交代するようになっており、学にも武の声が聞こえはじめます。理紗は学が完全に武に気づく前に、武に受けた誤解を解こうと思い、父親からの性的虐待について武に告白します。この後、武は理紗に「愛している」と伝えます。ひとりよがりで下手な方法で。ここで武がすげー好きになりましたね…

一方、武と理紗が話すのを聞いた学は、未だ武を自分の別人格だとは認識していないため、かつての親友と理紗が話しているのだと勘違いします。学は疑心暗鬼になり理紗を襲い、パニックに陥る。学を止めるために武は強引に学から「指定席」を奪う。学の意識があり、譲る気もないときにそんなことをすれば、学と混ざり合って自分が消えてしまうと予感しながら。武がイケメンすぎて困る。

そして武は消え、「学」が残った。

「学」は理紗と二人で理紗の家から逃げ、かつて武と学が母を殺した公園にたどり着きます。そこで二人はお互いの愛を確認する。そして、希望と決意に満ちたラストシーン。俺の受け取ったメッセージを書いておきます。


世界は愛してくれない。
罪は赦されないし、罰も与えられない。
未来はわからない。
愛する人がいても補完されるわけじゃない。

でも、

世界を愛している。
未来を信じている。
罪を背負って、ふたりで生きていく。


これは確かに偽物の希望です。でもそれさえあれば生きていける。言ってみれば最小のハッピーエンド。

素晴らしい作品を生み出してくれた瀬戸口さんに感謝。