2014/12/30

今年やったエロゲ(新作)を数えてみたところ14本だったようです。9月10月買ってないのでこんなもんですかね。見返してみると、『はるかかなた』の雫ルートと、『蒼の彼方のフォーリズム』のみさきルートが記憶に残ってるかな。

『はるかかなた』自体はひどいバグゲー(強制終了とか音ズレとか)だったりメインだと思われるはるかルートが凄く嫌いなシナリオだったりするんですが、幼なじみの雫ルートはバグにも負けず既に3~4回やっております。このゲームは「私のために泣いてくれてありがとう」などという煽り文句に象徴されるように、所謂泣きゲのフォーマットのようなものを意識して作られています。まあ病気だとか家庭環境の酷さだとか生死とかそういうやつ。で、その辺に踊らされてしまったのがはるかルート、特にわざわざnormalとtrueに分けたあたりで、これは正直いって嫌いです。

一方、雫ルートでは、人が死のうが猫が死のうが全て雫の笑顔の価値を主人公およびプレイヤーに認識させるための道具でしかない、という暴挙をぶちかまします。起承転結の転にあたる部分で雫の立ち絵の(これまでと同じ)笑顔に対する認識が転換させられ、転から結に至るまでの物語と主人公の思考・行動は雫の笑顔を志向するだけの存在となる。そして全てはラストシーンの雫の笑顔の一枚絵に収束し、俺は当然のように脳がやられる、と。

『蒼の彼方のフォーリズム』は、フライングサーカスっていうスポーツの部活ものですけど、みさきルートは特に理解不能な才能を目の当たりにした人間の描写が見事。相手の才能を理解すらできない賢しいみさきのペラッペラな言葉だとか、その自分の薄さに感づいた状態で、自らに憧れる少女に接するときの態度だとか。みさきの中で澱んでいく苛立ちの描写もライターさんの怨念を感じるレベルで上手い。例えば、天才である明日香が飛ぶ様子を見る際に、"みさきはもたれかかっていたバスのボディに、コツンと後頭部を当てて、けだるそうに空を見上げる。" このテキストでみさきはわざわざ"コツンと"音を立てている。

こういったみさきの姿は、かつてフライングサーカスで挫折して今は選手でなくコーチをやっている主人公の相似形でもあります。主人公はみさきがフライングサーカスから目を逸そうとする様を見て、極めて身勝手に、みさきに自分を投影し始める。そして、フライングサーカスへの未練を残す二人が、グラウンドの喧騒から取り残された夕日の差し込む教室で対峙するシーン。主人公は自分の情けなさを語り、さらに身勝手にもみさきに「飛んでくれ」と言う。みっともないにも程があるんですが、だからこそ、それを聞いたみさきが初めてペラッペラな言葉ではぐらかすのをやめてぐちゃぐちゃの自分をさらけ出し、主人公と契約してフライングサーカスの練習を再開するわけです。このどん詰まりの二人の狭さは、クライマックスとなる試合での狭い戦術にも繋がっているので、試合もけっこう面白く読めた記憶があります。

まあ時間できたらどちらももう一回やりたいところではあります。はるかかなたのパッチはver.3(これはひどい)とか出たらしいですし。

2014/12/21

尾崎かおり『神様がうそをつく。』

祈るような物語というものがある。読んでいるときに、読み終わった後に、登場人物の幸福を祈らずにはいられなくなるような物語。あるいは、本そのものが、祈りを外に放つような物語。

尾崎かおり『神様がうそをつく。』は、11歳の普通の少年(夏留)と、どこか大人びてみえるクラスメイトの少女(理生)のひと夏のお話。物語は、放課後の教室に差し込む夏の日差しと風の中に立つ理生に、夏留が見惚れる場面から始まる。

ここで試し読みできるようです。

あとこのMADも良いですね。
【MAD】 風に吹かれて 【神様がうそをつく。】

以下はネタバレを含むポエム。







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基本的に、夏留が飼えない猫を拾ったり、所属しているサッカーチームの新しいコーチと合わなかったりというような、11歳の少年としてありふれた悩みをきっかけとして夏留と理生との仲が進展していく。猫を理生が代わりに飼ったり、サッカーチームの合宿に行きたくない夏留を理生が自分の家に泊めたり。

この中で、夏留は理生の秘密を知っていく。それは社会一般から見て「重い」ものもあれば、理生の作るハンバーグの味や、理生の肩の温かさのような、11歳の少年にとって重大なものもある。自分とは別の生き物である「自分」を持つ他者を初めて知っていくような交流。そして祭りのあと、夏の雨の中で、子供だけが持つ世界の広さと自由の中で、夏留は理生を好きになった。とても当たり前なことのように。

子供だけが持つ世界の広さと自由は、子供であるが故の世界の狭さと世界に対する無力さの表裏だ。この物語には、夏留たちに優しい大人も、他人でしかない大人も、ろくでもない大人も等しく登場する。世界は等質ではないが、総体としてフラットなものとして描かれる。だからこそ、子供にはどうしようもないことも起こる。

そうした世界からの、夏留と理生の逃避行は、「どこにも行けない冒険」なのだろうか。それとも「さいはてまでだって」行ける冒険なのだろうか。家出の範疇でしかない逃避行の果てで、彼らは「さいはて」の夢を語りながら、「どこにも行けない」押入れの中でキスをする。

神様がうそをつく。幸福という嘘を。それに騙されて生きていく。これは希望の物語である。
ぼけーっとアニマスMAD片っ端から見てたら時間溶けてた。さすがに良いの多いですねえ。アイマスはアニメを不真面目に見たくらいで、春香の異様さと美希のカッコよさとあとは真くんにおちんちん生えてたらなぁくらいしか覚えてないんだけども。あとえらく765プロというものを志向した物語だなーと。その内真面目に観よう。

そもそもなんでアニマスMADをマイリス上位から3桁くらいまで片っ端から見たりしたのかというと、新着順で見つけたこの↓動画がえらく良かったから。

【MAD】ゴーイングmy上へ【アイドルマスター】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25033868

作者がアイドルを見るまなざしが非常にはっきりとわかる。ステージ上に結晶する人間の「物語」ごとアイドルとして美しいと宣言するような。「物語」のクライマックスとして配置されたライブ。幕が開く瞬間のテンション。ステージでの動きとその中の瞬間の切り取り方。ステージはファンの姿を入れて俯瞰される。

これ見てて気づいたんだけど、俺はどうやらアイドルというよりアイドルを見るひとのまなざしに興味があるらしい。そういやドルオタの人のブログとか好きなんだよね。というか、人が人を美しいと思うその感情に興味がある。その人が何を美しいと感じたのか。例えば、いま紅の新刊読む前に1巻から読み返してたりするんだけど、真九郎が紫を見るまなざしとかも非常に好きですな。まあ自分で憧れることはたぶん一度もないままだろうから、色眼鏡を探してるのかもしらん。

せっかくなので片っ端から見たうちで気に入ったのをいくつか。判断基準は作者の目線。

【MAD】 Electro World 【THE IDOLM@STER】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17859076
これは前から知ってたんだけど、やはり一枚絵が最強である(エロゲ脳)。多用される風景も存在感高めててたまらん。

[春香MAD] EXIT
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20989341
世界に少女がいて、歩いているようです。職業はアイドルだと聞きました。

コマチトリップ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18615179
完璧。

2014/12/17

『夏めろ』 雑感

夏めろをようやくプレイし終えたので雑感。

とにかくプレイしててきつかった。原因ははっきりしてて、やたらと描写が上手い主人公の思考回路がすんげー嫌。初めて付き合った年上の彼女と別れてしばらく経った非童貞の高校三年生男子の、高校生活最後の夏における思考回路として生々しすぎる。特に、自分に好意を持っているだろうと思われる女(妹は含まれない)を前にした時。

例えば、美夏の胸揉んでるうちに興奮してきてセックスしてしまうとことか。「先っちょだけだから」とか言って迫ってたけどそんな台詞エロゲで聞きたくねえよ……。そういうのはですね、現実で女を知った気になった高校生のガキがやってください。俺はヘッドホンつけて登場人物が全員18歳以上のエロゲをしたいのであって、ちんこから我慢汁出っぱなしみたいな高校生のエロガキの生態観察をしたいわけではないのである。あとエロシーンで言うと橘花ルートの初Hシーンも主人公が気持ち悪すぎて耐えられんかった。レイプじゃねえのあれ。エロシーン以外だと別れた先輩と電話するシーンも、あーこういう奴がお別れのセックス(はぁと)するのかなーと思いながら読んでた。

要するに、現実において俺が嫌悪するタイプの人間を主人公として、一人称で物語られていたわけです。ヘッドホンして関わらないでいれば見なくていいはずのものを、彼らの内面を含めてやたらと達者なテキストで読むことになったと。もちろん、俺は彼らではないので、彼らが外部に語ったものから類推した「彼ら」しかわかんないですけど、プレイしててとにかくきつかった。

まあこんだけ嫌悪感抱くってことは、よく出来ていたということでもあります。美夏ルートとか、ヤっちまってからちゃんと付き合うまでの描写かなり上手いですし。橘花ルートは初Hシーン以降は冷静に読めなかったので判断できないですけど、共通で縁側で寝てる橘花を見つける直前のテキストなんかは他人の家の臭いがするレベル。

意外と上履きが汚い委員長は、途中で普通に怖くなったのでやめました。もったいないことをしたかもしれん。

秋ちゃんルートは主人公への嫌悪感が比較的少なかったのでふつーに読めたかな。恋愛SLG的な好感度の上げ方で仲良い先輩後輩になって、みんなで遊びに行って、二人でデートして告白して、夏祭りの帰り道でキスして、誰もいない家に呼んでセックス、というテンプレ展開なんだけど、それがどっかから聞いたような「お付き合い」をする高校生的なリアリティを与えている。ただまあこれも高校生のみなさん頑張ってくださいといった感じ。

つぐみ様は、こんなもん大好物に決まっているので書く必要もない気がしますが、プレイ中はとにかくつぐみ様の一言一言に「はい… 悪いお兄ちゃんでごめんなさい…」してたようです。あんなんひきょう。

2014/12/15

西 UKO 『となりのロボット』

TLに流れてきたので読んでみた。えーっと、百合SF?になるのかしら。幼なじみ、百合、ロボットあたりがキーワードですけど、タイトルが『となりのロボット』となってるように、ロボットものとして素晴らしい。

主な登場人物は、人間の少女であるチカと17歳の少女型ロボットであるヒロちゃんの二人。二人が初めて出会ったのはチカが4歳のときで、回想をはさみながら、17歳の二人の時間が主に描かれます。ちなみにここ↓で試し読みできるようです。

http://tap.akitashoten.co.jp/comics/tonarino


んじゃ以下ネタバレ感想。








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ロボットと言ってぱっと浮かぶのは、機械的(アルゴリズムによる判断)、変化のなさ、おしっこが純水の3点ですが、前者2点に焦点を当てて非常に丁寧に書いてあります。

前半は人間であるチカ側に焦点が当たっていて、「変化」という点についてチカとヒロちゃんが対比される。わかりやすいところでは、初めて会った4歳のときから、ヒロちゃんの身長を追い越してしまった今との外面的な変化ですね。ただ、ここで秀逸なのは、変化しないヒロちゃんの外見と変化する自己の外見を見つめたチカが、勝手に成長していく自己の身体に取り残されたような感覚を抱く場面。そしてそれが二人が17歳という同じ時間にいる瞬間へのチカの執着に繋がっていく。

この時間の貴重さを認識しているから、ヒロちゃんの身長を初めて追い越した日に、かつてヒロちゃんに(不正確に)褒められて以来ずっとつけていたリボンを外して、子供の時間を終わらせようとした。その一方で、直後の「私のこと、忘れないでね」という台詞は、「この瞬間の」という(つまり、全ての瞬間の)私のことを覚えていてという幼稚な欲望であったりして何というかチカえろいよね。

しかもこの後、ヒロちゃんが6年前のチカが喜んだリボンをプレゼントしてきたらリボンつけるようになっちゃうという。貴重な時間の中で、同一点にいるヒロちゃんと、6年前のリボンをつけたままの自分を認識しながら、チカが人形(ヒトガタ)に抱かれる夢に沈むシーンは、この漫画で最もエロいシーンでしょう。

まあこんな感じでチカと彼女から見た「変わらない」ヒロちゃんを描いた後で、ヒロちゃん(プラハ)の変化の説明に入るんですが、ここからがこの作品の肝っすね。ロボットは変わらないし、プログラムに従うものであるという前提のもと、ヒロちゃんが「ロボットとして最大限」チカを愛する様が描かれていく。

ヒロちゃんは、外部から入力されたデータを評価関数に基づいて取捨選択し記録する。語彙や表情の記録に基づいて出力を行う。これはヒロちゃんが作られたときから変わらない。当然、チカと初めて会ったときからも変わらない。

ヒロちゃんがこの「変わらない」アルゴリズムを元に動作する様が、チカちゃんや、ヒロちゃんの産みの親である沖島先生といった、ヒロちゃんが最上位に評価する対象との交流を通じて丁寧に表現される。

ヒロちゃんはチカのことを「好き」だと言う。チカとともに変化して学んだ語彙を使って。チカのデータを重要だと評価して優先的に記録してきた。今、ヒロちゃんが最上位に評価するものは、チカの笑顔だ。そして、もっとチカのデータを記録したいと出力する。それがヒロちゃんの「好き」だ。

評価関数は外的要因によって変動する。学習により出力される表情や語彙が変化する。それらは全て単純なプログラムとして表現可能だ。だけど、それが何を貶めるというのだろう?と。

そして、物語のクライマックスで、チカがこの本質に気づいていたことが明かされる。

チカはヒロちゃんが「ロボット」だという前提(これは、チカがヒロちゃんと出会って、成長とともに最先端でない「ロボット一般」について情報を得た結果のものでしょう)があるので、ヒロちゃんを「変わらない」とかヒトガタでしかないと口にし続けていた。だけどその一方で、ヒロちゃんの記録と出力(6年前のリボンもそう)に異常に執着する。

水族館デートの後、ヒロちゃんが今日のことを覚えているかを気にするチカに対して、研究所の職員が「もしもプラハ(※ヒロちゃん)が忘れてしまったとしても 君が覚えていてくれればいいんだよ」と答える場面。一見正しいこの言葉に対し、チカは「それは自己満足でしかない」と言い切る。チカはヒロちゃんの記録にこだわる。ヒロちゃんの出力にこだわる。ヒロちゃんが、データを入力し、評価して取捨選択して記録し、私との思い出を最上位に記録し、私との十数年で学んだ笑顔を出力してくれることに。

チカは、ヒロちゃんによる「ロボットとして最大限」の愛を、最上位に評価する。