バレンタインデーは妄想が捗っていいですね!理想のバレンタインデーについて一日中考えていたら以下のようなことになってしまったそうです。
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溶けてぐしゃぐしゃになったところをわざわざ選んで歩き、雪が残っていて滑りそうなところでは少し気を張って足を運ぶ。雪道は好きではないが、歩くことに集中するのは嫌いではないかもしれない、なんて考えが浮かんだが、どうでもよすぎてすぐに消えた。
そんな感じでぼけーっと歩いていたら、うちの学校の女子が少し早足で俺を追い抜いていった。習性で顔を上げると、涼だった。なぜか俺に声もかけず、そのくせ歩く速度はしっかり落として、いつものように俺の少し前を歩いている。普段と違い、雪道を歩くときは涼のほうがどんくさい俺のペースに合わせてくれる。
「涼?」
「んー?」
「声くらいかけりゃいいのに。」
「あー確かに。」
会話はそこで途切れて、黙ったまま同じペースで歩く。こいつと一緒になったときは大抵そうだ。ただ、今回はなぜか沈黙の居心地が悪い。理由を探す意欲だけはあるんだけど、傍から見たら呆けているようにしか見えない顔をして、涼の足元を眺めていた。
……
突然距離が詰まり始めた。涼がペースを落としたらしい、と気付いて顔を上げると、約3mが消えて涼が俺の隣にいた。涼の頬が、寒さの中で浮いている。見惚れていたことを自覚して、自然さを装って俺も前を向く。そのとき、コートの右ポケットに異物を感じた。立ち止まって反射で手を伸ばす。何か入っている。取り出して、は?と思って涼を探した。涼は、いつもの距離だけ前に立って、盗み見たことしかない表情で俺を見ていた。
うまく声を返そうと考えているうちに、彼女が笑い、そして再び歩き始めた。とりあえずあいつに追いつこうと急いだら、かっこ悪くも滑ってコケた。涼はもうずっと前だ。そもそも俺のペースに合わせてくれなきゃ追いつけるわけねえよ、と独り言つ。涼が角を曲がった。右手で握っていたものの感触を忘れていたことに気づいた。溶けた雪がズボンの尻を濡らしていた。