2012/03/20

『Routes』 七海ルート ネタバレ感想

『Routes』プレイしました。

けっこうボリュームあるゲームで、リサ・皐月・ゆかり・七海・夕菜の5人を攻略すると、Routes・Rootsというグランドルートに進めるという構造。七海・夕菜シナリオはライターさんが違っているらしく、この2人はグランドルートには全く出てきませんでした。メインルートも(Routesを除いて)なかなか良かったんですが、俺はけっこう大差で七海ルートが一番好きです。

……ロリコンだとかそういうことではなく!いやそれもあるけども!シナリオがいいんですよマジで!

証明がてら真面目に感想書いてみます。ネタバレあり。

主人公の宗一はエージェント(スパイのようなもの)。宗一は調査でさびれたスナックへ行き、そこで七海に出会う。七海は幼い頃に両親を事故で失い、親戚をたらいまわしにされた末にこの店に売られ、ただ同然にこきつかわれている。

まあひどいもんです。まだ子供ですから、仕事で失敗することもある。そういったときには店長に殴られたりもします。だけど、七海はこれしか知らないから、これが「ふつう」であり、彼女が定義した彼女の「幸せ」は、食事がちゃんと与えられ、寒さに凍えずに眠れる、ということ。肯定されたことがないから、だめな自分は頑張ってようやく「半人前」だと自分を評価する。作り笑いを浮かべながら。

それでも彼女の目は美しい。「半人前」の自分には、「一人前」になりうる未来がある。自分がだめだから現状がこうなっているという認識は、まだ救いがある。それは理不尽に対する、間違った適応なのだけれど。ただこれも、外を知った人間による自分の価値観に基づいた勝手な評論でしかない。

宗一は、かつての自分と七海を重ねます。彼はそこから抜け出した人間で、七海の「ふつう」の外を知っている。店長に殴られた七海を見て、宗一は七海を店から救い出します。彼の「ふつう」に従って。彼の「幸せ」の定義に従って。

でも、「幸せ」は誰が決めるのか。

連れだしただけでは七海は幸せにはなりません。それは本質的に何の意味も持たない。七海は宗一と一緒に暮らし始める際に「雇ってくれ」と言います。宗一が期待した変化など起きなかったわけです。宗一が仕事から帰ってくると、部屋に七海が待っている。それだけの日常が続いたある日、たまたま宗一は自分がいないときに、自分を待っている七海が部屋で何をしているのかを知ります。

七海はベランダから街をうれしそうに眺めながら、宗一の帰りを待っていた。

帰ってきたとき七海の手がいつも冷たかったのは、ずっと外で待っていたから。「けなげだ!かわいい!」じゃないです。そういう話じゃない。これは、それまで誰かに何かを期待することができなかった少女が、初めて「期待すること、期待できることそれ自体の幸せ」を知ったということです。七海は主人公と出会って、一緒にすごして初めて「いってらっしゃい」という言葉を言えるようになった。それは帰ってくるという期待を抱けないと決して言えない言葉です。誰かを想えるという幸せ。EDテーマである『あなたを想いたい』そのものです。

宗一がベランダに佇む七海を見つけたのは、ちょうど仕事で探していた宝箱を見つけて返ってきたときでした。宝箱の中身はすでになく、空っぽだったけれど。ベランダから振り返って、七海が尋ねます。「宝物は見つかりましたか?」と。

主人公が見つけたのは、それまで空っぽだった部屋に隠れていた宝物。

これは、ルーツをつくる、物語。